靴が見つからないのvol.01

私に合う靴が見つからないの。お気に入りの靴が見つからないの。そう思い続けて、早幾年。マイ定番シューズが欲しい。別に私はミニマリストではないし、雑誌の特集的「俺の定番」を作りたいわけでもない。単にスペースの問題なのだ。いつか大きな下駄箱がおける家に住めるようになったら、その時は毎朝違う靴を選ぶのもいい。でも現実は、手作りした矮小空間に、汚れた靴を詰め込んでいる(履かれない靴たちはクローゼットの隅に積み上がっている)。そして何も考えずに、部屋の鍵やスマホをポケットに入れるみたいに、いつも決まった靴を手に取る。

2023年10月現在の私の下駄箱。スタメンのスタンスミスに運動靴のNB990、ごくたまにスタンスミスと入れ替わる代打的存在NB550。ブランドストーンのサイドゴアは長靴的に、雪道などのオフロードで活用。まあそんな環境はほとんどないのだが(つまりほぼ履いてない)。あとはビーサン。

 

2023年現在、この役割はアディダスのスタンスミスが担っている。5年くらい前、ノームコアとか似非ミニマリズムが流行った時、おしゃれな人はスタンスミスを履いていたような記憶があるが、そういえば最近はめっきり見なくなって、ようやく本来の位置に落ち着き直したような印象である。私の場合は、2022年に私服可の職場に転職した際、無難な白スニーカーを求めてスタンスミスに行き着いた。消去法、というか、思いつく選択肢がほとんどなく、仕方なしに購入したモノだが、なんとなく毎日職場に履いていくうちに、これまたなんとなく2022年までの約10年間履き続けたVANSのERAに引導を渡すことになった。つまりお気に入りでもなんでもないのだが、個人的にはこのなんとなくという感覚で履けるモノこそマイ定番シューズにはふさわしいと思っている。日常の足としてトヨタ・カローラに乗るみたいに、近所のスーパーマーケットで買った千円の雪平なべで毎日味噌汁を作るように、使う時に限りなく自意識が削ぎ落とされたものが欲しい。「なんとなく」たりうる条件を言語化してみよう。一つ目はまず、いつでも、どこでも手に入ること。インターネットで手に入ればいいが、食料品の買い物のついでに近所の店で手に入れられるようなものだともっといい。二つ目は、価格が手頃であること。どんなに高くても1万円は超えてはいけない。三つ目は、手入れがしやすいこと。つまり、水と洗剤でゴシゴシ洗えて、乾きやすいこと。さて、この観点からいえば、暫定的マイ定番のスタンスミスは、落第である。どこにでも手に入るが、価格が1万円以上するし、人工レザーの生地は風通しが悪く、乾くのにかなりの時間がかかる。そして、こういった条件面を無視したとして、何よりも私の気に入らないのである(嫌いなわけではない。飲み会には行けるが、一緒に旅行には行けない、くらいの距離感。裏返せば、親友ではないが、旅行も楽しめるくらいの距離感の靴を求めている)。これがなんとなくの難しいところで、なんとなくとは「これというポイントを挙げることはできないが気に入っている」と、「特に不満はないのだが気に入らない」の間を、どちらにも振れるとも振れない絶妙なところに生息しているものなのだ。先代の定番ヴァンズ・エラは、条件はどれも完璧にクリアしたものの、結局後者に振れてしまった。

 

ところで、スタンスミスを履いてみて感じたのが、白いテニスシューズ(正確にはテニスシューズ型)の驚くべき汎用性だ。みんなこの汎用性のベネフィットを大昔から享受してきたのだろうが、私はごく最近知った。どんなパンツにも合う。少なくとも私が持っている全てのパンツとマッチする。シューズとパンツが決まれば、あとは一次方程式みたいにトップスは自ずと決まるといっても過言ではない。それほどにシューズとパンツの組み合わせは重要である。だから、必要条件に「白いテニスシューズ」を加えるのもありである。そうして新しい条件を整理すると、白くてソールがフラットなシューズかつ、手入れしやすい素材で(基本はコットン)、世間的にみても定番品で(なくならない)、あわよくば安い(昨今の物価高を考えるとやや諦めてもいる)。こんな感じだろうか。

 

つづく・・